日本語の記事

http://newmatilda.com/2009/08/24/value-japanese-inefficiency

2009年8月24日

日本的「非効率」の価値

日本の非効率な国内経済は、いかに安定的な「成長」がない世界を生きていくかを考える上で重要な示唆となり得る。今週末の総選挙の持つ意味は大きい。(ジョナサン ガディ記)

 

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 日本を訪れた者にとって、とりわけ印象的なのは、その犯罪率の低さと、公共の場において反社会的な行動がほとんどみられないことだろう。この安心感は、人々の日常生活の中の多くの場面に根付いている。

日本のホテルのレセプションでは、宿泊客のルーム・キーを他人に持っていかれないようにするための措置はまず必要ない。東京の中心部にあるコインランドリーは無人だが、誰も洗濯機を壊したりはしないし、コインをくすねたりはしない。スターバックスに入った学生は、300ドルもする電子辞書をテーブルに置いたまま席をはずしたりしている。

日本の都市のまた別の特徴は、その密度にある。小さな-とても小さな―小売店、飲食店や居酒屋が信じられないほどの密度で集まっている。そしてそれらの場所には過剰とも思える数のスタッフが働いている。一人が店のドアを開け、別の者はトレイを運び、また別の者が会計を担当し、さらにまた別の店員が商品のラッピングを行っている。

街の駐車場の入口付近では、歩道に立って赤い旗を振り、出てくる車に注意するよう歩行者に呼びかける年老いた警備員たちがいる。

一見無関係に見えるこうした風景は、実はすべてつながりがあるのだ。

日本は「二重経済」の国だとも言われる。ソニーやNECが最先端のハイテク商品を生み出す輸出志向の効率的な大規模ビジネスセクターがある一方で、中小規模の事業者による国内向けのセクターも存在する。こうした国内向けの分野では、顧客向けのサービスのレベルや品質管理の水準は全般的に極めて高い。ところがそうした特徴は、エコノミストたちの目には非効率と映る。なぜならそれらは、ローテクで、人員過剰で、高価だからだ。

こうした非効率なセクターは、日本の日常生活の中の重要な一部として組み込まれており、いろいろな手段によりこのセクターは守られている。たとえば、政府は中小規模の事業者に補助金を出して、雇用維持策を「積極的」に行っている。それ以外にも、建設事業への大規模な投資(たとえば誰にも利用されていない神戸の立派な地下鉄建設など)や小規模農家から市場価格をはるかに上回る価格での農産物の買い付けなどを実施している。

雇用について言えば、政府は福祉に充てる財源を作るよりは、雇用を維持することに重きを置いている。実際、失業手当を受けるためには厳しい条件がある上に、金額は少なく受給期間も短い。同時に、転職することもかなり難しい。エコノミストの言葉を使えば、労働市場の流動性が低いのだ。

「社内失業」というのも、きわめて日本的な減少だろう。何もやる仕事のない従業員が雇用され続けているのだ。

こうしたやり方は、最近まで実際にうまく回っていた。

エコノミストの言うとおり、それは確かに非効率の保護や助長といえるだろう。確かにそのとおりだ。しかし、何かが非効率かどうかという判断は、その果たしている役割をどう捉えるかによるだろう。株主のために配当を作るためなのか―それとも、経済的格差を抑えて社会的なまとまりを維持するといった、他の社会的目的のためなのか。

しかし近年では、こうした保護のシステムが変化の圧力にさらされている。輸出産業が、もはやかつてのような稼ぎを得ることができなくなっているのに、どうして支出を続けられるというのか?雇用補助金や建設事業、小売店員や小規模農家に再分配するための財源がなかったらどうすればいいのか?

今世紀の初頭、小泉純一郎主張は市場の自由化と財政支出の削減を推し進めてきたが、その成果は非常に限られている。日本の政治システムにおいては、地方の政治家にトップダウンでその意思を強制することはできない。すなわち、地方の選挙区のために「非効率な」事業や補助金が提供されるのを止めることはできないのだ。

日本では新自由主義的な価値観を信奉する政治家は比較的少数だといえる。これはおそらく経済的な平等と社会的な調和を重視するという全般的な合意が社会的に存在するからだろう。そしてこの価値観は、序列重視の「集団主義」という日本にしぶとく存在する文化的な伝統と共存している。学校、大学、隣近所、職場などは、義理による人間関係により成り立っている(そして多くの場合、それは不均等な師弟関係のような形を取る)。こうした集団の中において、人々は先輩-後輩関係の中に位置づけられ、その秩序の中で社会関係を形成していく。ほとんどの日本人は、日本社会に特有のこの特徴に気づいているが、それがどれほどフラストレーションの溜まるものであっても、アメリカ型の新自由主義的な社会の方が魅力的だとは考えないのだ。

ある調査によれば、社会システムの持つ機能のうち日本人がもっとも大切と考えるのは、「雇用の維持」、「コミュニティレベルでの人間関係」、そして「中小企業および自営業者の保護」との結果であった。

とすれば、これまで見たような非効率な財政支出のことを「人気取りのための利益誘導」ということはできるが、実はそれは社会的調和を守る役割を果たしている解釈することも可能なのだ。

意識的であれ無意識的であれ、日本はGDPの成長や株主への配当、個人の職業選択よりも、社会的調和を優先することを選んだ。そしてそれのどこがいけないのか?土曜日の深夜に、シドニー、メルボルン、ブリスベン、パースの街を犯罪や暴行などを警戒しながら歩くのと、東京の街中を安心して歩くこととを比べてみれば、そのメリットは明らかだ。

ところがこの社会モデルも次第に不安定になってきている。所得の格差はかつてOECD諸国の平均よりはるかに小さかったが、過去20年の間にその差は縮まり、今では平均より少し高いレベルにある。犯罪率も、まだほかの先進国に比べれば低いレベルにあるものの、急激に上昇している。

日本政府がこれまでに雇用を守るために行ってきた施策は、厳しい経済状況の中で、かえって経済的な不平等を助長する結果を生む一因になるという矛盾が起きている。過去10年の間に、正規雇用の従業員を解雇するのに伴う法的手続きのわずらわしさを嫌って、企業はより安い賃金で非正規の職員を雇用するようになった。有期雇用や契約社員の割合が爆発的に増えたが、彼らは解雇が容易で、雇用保障や正規雇用職員のような相互扶助のシステムを享受することのできない労働者である。今では全労働人口の三分の一以上がこうした契約労働者である。

社会保障の受給資格に厳しい条件があるために、こうした不安定で低賃金の労働者が、かつてなかったほどの規模で貧困状態に陥っている。東京では賃借料が高いために、こうした人々―主に若者―が、24時間営業のインターネットカフェに寝泊りしていることもある。

今、日本は転換点に来ている。自民党は、この国の抱える根本的な問題に対応することができずにいる。日本国民は、50年間ほぼ途切れることなく政権の座にいた自民党を見限って、ついに政権交代に賭けようとしている。ただし、それは野党の民主党に対する信頼に基づくものではなく、むしろ自民党に次々と起こるスキャンダルによるものだろう。果たして新政権は、今、危機に瀕している日本の経済的平等や社会的調和といった価値を維持するために、社会的な保障のシステムを作り直していくことができるのだろうか?

そこには、日本の1億2700万の人々の幸福にとどまらない意味を持つ。日本の社会モデルは、いろいろな意味で貴重なものであった。日本の社会は、これまで経済的な効率よりも社会的な価値を優先してきた。それはつまり、グローバルな経済危機に際しても、同様の選択を行う可能性があることを意味しているのだ。

現在の状況には、また別の重要な側面もある。移民はオーストラリアやアメリカなど、他の先進国においては経済成長の大きな力となってきたが、日本では社会的調和を維持するため、移民の受け入れを認めていない。日本の高齢化やほとんどゼロに近い人口増加率を、移民によって解決することはできないのだ。もしも今後も移民受け入れを進めないのであれば、日本は何か新しい経済政策を切り開く必要がある。

ゼロ成長や安定経済といった考え方がいかにしたらうまく機能するのか、また健全な経済とは何か、日本はそうしたことを世界に示すことのできる独特の立場にいるように見える。もし日本がその社会構造や価値を維持することができるとしたら、おそらくそれは人口も経済も成長しない中で、どうしたら生活の豊かさを維持することができるのかという方策を世界に対して示すことになるだろう。

だからこそ、日本がその「非効率」を社会的調和の伝統を守ることができるかどうかは、日本だけでなく、世界にとっても重要なことなのだ。

 

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